【テレビ朝日 サンデーステーション】富野由悠季×高橋杉雄 “戦争と平和”対談 全文文字起こし

【テレビ朝日 サンデーステーション】富野由悠季×高橋杉雄 対談 文字起こし

 2023年8月13日、78回目の終戦の日を前に、テレビ朝日「サンデーステーション」内で、アニメ監督 富野由悠季氏と防衛研究所 防衛政策研究室長 高橋杉雄氏の戦争についての対談がありました。ツイートしてみたら反応が良かったので、文字起こしをしてみます。

 やっぱりみんな富野さんの言葉に関心を持って、注目してるんだなあ(嬉しい)。

©︎テレビ朝日

■ガンダム原作者が語る“戦争と平和”

高橋「私は1972年生まれですから戦争と関わりのない人生を送っているんですけれども、監督ご自身は戦争の時期にかぶっていると思うんですが」

富野「かぶっているとはいっても、防空壕に逃げ込んだ記憶が2,3度あるだけで、被害者として深刻じゃないんです」

富野「そういう意味での戦争の記憶があるかのというと父親から聞かされた話は「だけどなあ」って「コンニャク爆弾つくらされちゃったんだよなって」

富野「「コンニャク爆弾ってなあに」」

富野「だから「風船爆弾」で」

ナレーション「太平洋戦争末期、追い詰められた日本軍は、アメリカ本土攻撃のため、風船爆弾を開発。無謀とも思える作戦に出ました」

富野「(父親が)コンニャク爆弾の気球の被覆を作る試験の段階の仕事をさせられて」

富野「コンニャクのりが有効だから、生産できる手法を開発することを会社的にやらされた」

富野「化学(ばけがく)専攻の父が戦後になっても言っている嫌な話があるんです」

富野「「太平洋戦争の時、シンガポールまで行ったところでやめとけばよかったのに」」

ナレーション「勝ち目のない戦争を否定しなかった父親。大人への疑問が沸き起こった瞬間でした」

富野「(父親には)もうちょっとモノを考えてほしかったというのは中学から高校時代の印象でもあった」

富野「そういうことが僕にとって、なんていうか戦争考える上で、やっぱりかなり大きかったんじゃないかな」

アムロ「こいつ…!動くぞ……!」

ナレーション「1979年に放送が開始された、機動戦士ガンダム。ロボットアニメに、政治や戦争のリアルな描写を持ち込み、これまでになかったアプローチで、アニメ界に革命をもたらした作品です」

デギン「貴公、知っておるか。アドルフ・ヒットラーを」

ギレン「? ヒットラー? 中世期の人物ですな」

デギン「ああ…独裁者でな、世界を読みきれなかった男よ。貴公はそのヒットラーの尻尾だな」

ナレーション「続編も次々と制作され、シリーズは60以上。世界中にファンを獲得し、ガンダム関連の売上は、去年初めて、年間1,000億円を突破しました」

■ロシアによるウクライナ侵攻

高橋「去年(2022年)の2月にロシアとウクライナの戦争が始まって、この戦争はいろいろな特徴があるんですけれども、富野監督 これまで色々な作品のなかで戦争を描いてきているわけですが、描かれている戦争と今、映像として出てくる戦争といったものを、見比べるというか、見ているときに、なにか、どのようなことを感じられたり考えたりされているのでしょうか」

富野「ロシア軍の、トップの人たち、の自信のない目つき。を見ていると、こういう人たちが指揮をとっているとは思えない」

富野「だからワグネルのようなものが出てきてしまった、じゃなくて」

富野「ああいう民間軍事会社みたいなところに頼らざるを得なくなってしまったという構造までがわかってきたときに、やはりこれはもう当然 旧来の戦争とは根本的に違うものになってしまっているところで」

富野「ちょっと戦争とは違うような気がしている」

富野「今回の戦争を仕掛けたプーチン大統領という方が、SNSを使っていない」

高橋「うん、そうですね」

富野「という証言がある」

富野「その証言はトランプ(前)大統領とは全然違うところで、ということは。リアルタイムで指揮するセンスというものを持っていないんじゃないかな」

富野「この1年を見て分かるのは、軍事というものを基本的に理解した上で統治していると思えない」

高橋「プーチン大統領の認知空間 認識の中で戦争は恐らく起こっている」

高橋「実際 彼は簡単に勝てると思ったからこの戦争を始めたので、戦争を始める前に1年半かかっても泥沼の消耗戦やってると知ってたら戦争をやらなかった可能性がある」

富野「そう思います」

富野「ゼレンスキーの(喜劇役者時代の)フィルムを見て、「あ、なるほどこいつが大統領になっているならそりゃ潰せるよね」って思った」

富野「これが実は人を考える上で大きなヒントになっていて、」

富野「つまり旧来の政治家とか旧来の軍人とか軍閥に頼っている人たちが、「専門家」が正しいのかといったときに、全く違う目線を持った人がガバナンス(=統治)をする」

富野「軍そのものをコントロールすることができるんだとすれば、やはりそのほうが新しい芽が出るんじゃないかなと思った」

富野「ゼレンスキーが“ニュータイプの芽”かもしれない」

アムロ「ララァが言った…『ニュータイプは殺し合う道具ではない』って」

ナレーション「ニュータイプとはガンダムシリーズに登場する架空の概念で、超人的な直感力と洞察力を備えた、次世代の人類のこと」

ナレーション「ガンダムの主人公 アムロ・レイは、ニュータイプとして覚醒し、戦争終結へと繋がる活躍を見せました」

ナレーション「戦後78年。今も繰り返される戦争を、ふたりは、どう見ているのでしょうか」

高橋「私自身はこの戦争(ウクライナ侵攻)が起こったときに、この戦争についてすごく向き合って考えていた時に、「あ、人類は変わらないんだ」という、ちょっと絶望的な思いを持った」

高橋「それは結局人類は核戦争に至らずに人類は滅びることなく冷戦を乗り切ることができた」

高橋「ところがそうやって安定していた時代が約30年間 日本では平成と重なる時代にあった。あったんですけれども」

高橋「平成が終わるぐらいから世界の対立が深まっていって、こんな大戦争が起こってしまった」

高橋「人類はやはり戦争を捨てることができない」

富野「絶望論で締めくくるのは簡単なことなんです」

富野「それで、アニメサイドから物を考えてきた時に「この絶望論は絶対に子どもたちには言ってはいけない」と」

富野「もう「人類が戦争を忘れられない種なんだ」というところはいい加減やめなさいよ」

富野「政治家と言われている人たちがそういうふうにものを考えるか」

富野「票田のことしか考えてないんじゃないか」

富野「反戦 反戦という言葉とか、私は被害者だから被害者が声高にいいます。その言葉が政府とか軍のトップに届くということは(目と声に力を込めて)人類史 一度もなかった」

富野「ということを、それこそ我々民百姓は思い知らなくちゃいけない」

ナレーション「戦争を経験し、学び描いてきた富野由悠季監督。「未来の子どもたちには絶望のない世界を作ってほしい」そう希望を託したいと話します」

富野「今回の事例(ウクライナ侵攻)で持っている深刻さというものを本当に理解してくれる世代というものが生まれてきて、それが具体的に決定権を持てるようになってきた20年後か30年後ぐらいに、新しい形での人類のガバナンス(統治)というのがありうるんじゃないのかな」

富野「今日までの人類の延長線上でものを考えることを一切やめる」

富野「ていうふうなところで、次の英知っていうものが生まれてくるんじゃないのか」

富野「そういうことができてきたときにガンダムで言っている「ニュータイプ」っていうふうなものにつながるんじゃないのかなって思っている」

●富野由悠季(81)…「機動戦士ガンダム」原作者・総監督
●高橋杉雄(50)…防衛研究所 防衛政策研究室長

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