2023年6月21日(水)、6月28日(水)、映画『リトル・マーメイド(実写版)』を観てきました(いずれもTOHOシネマ新宿)。今年11本目・12本目になります(ちなみにたのさんは火・水をお仕事の定休日にしています)。
21日が字幕版でIMAX、28日が吹替版でシアター4(通常スクリーン)でした。
言わずとしれたディズニーアニメのマスターピース、その実写化ということで、公開前から巻き起こった論争が大きな注目を集めた本作。ただ、その中身にはちょっと誤解があるんじゃないか、というものも含め、字幕版と吹替版どっちがいいか、IMAXで見た方がいいのか、通常のスクリーンで十分なのかといった観点も踏まえながら本作をご紹介していきたいと思います!
■作品データ
・タイトル:「リトル・マーメイド」
・監督:ロブ・マーシャル
・脚本:デヴィッド・マギー
・出演者(役名/日本語吹き替えキャスト):ハリー・ベイリー(アリエル/豊原江理佳)、ジョナ・ハウアー=キング(エリック王子/海宝直人)、メリッサ・マッカーシー(アースラ/浦嶋りんこ)、ハビエル・バルデム(トリトン王/大塚明夫)、セバスチャン(ダヴィード・ディグス/木村昴)、フランダー(ジェイコブ・トレンブレイ/野地祐翔)、オークワフィナ(スカットル/高乃麗)、ノーマ・ドゥメズウェニ(セリーナ女王/塩田朋子)、グリムスビー卿(アート・マリック/仲野裕)、ジェシカ・アレクサンダー(ヴァネッサ/沢城みゆき)
・音楽:アラン・メンケン、リン=マニュエル・ミランダ
・上映時間:135分
・公開日:2023年6月9日(日本)
・映画.com:3.3/5.0(2023/07/01現在・247件)
・Filmarks:3.9/5.0(2023/07/01現在・20,440件)
・Yahoo映画:3.4/5.0(2023/07/01現在・2,274票)
・Movie Walker:4.0/5.0(2023/07/01現在・158件)
・Google:51% のユーザーがこの映画を高く評価(2023/07/01現在)
■概要
『美女と野獣』『アラジン』のディズニーが、あの不朽の名作『リトル・マーメイド』を全世界待望の実写映画化! 世界中から愛され続けている人魚姫アリエルを演じるのは、期待の新人ハリー・ベイリー。
アカデミー賞Ⓡに輝く「アンダー・ザ・シー」などで知られるディズニー音楽のレジェンド、アラン・メンケンと『モアナと伝説の海』の楽曲を手掛けたリン=マニュエル・ミランダの黄金コンビにより、 ディズニー・ミュージカルの新たなる金字塔が誕生する。(以上、公式サイトより)
■ストーリー
美しい歌声をもち、人間の世界に憧れている人魚アリエル。掟によって禁じられているにも関わらず、ある日彼女は人間の世界に近づき、嵐に遭った王子エリックを救う。この運命の出会いによって、人間の世界に飛び出したいというアリエルの思いは、もはや抑えきれなくなる。そんな彼女に海の魔女アースラが近づき、恐ろしい取引を申し出る。それは、3日間だけ人間の姿になれる代わりに、世界で最も美しい声をアースラに差し出すことだった…。(以上、公式サイトより)
■たのさんの個人的評価
※すでによく知られている物語であることから、いわゆるネタバレへの特段の配慮はしません。ただ、これから鑑賞する人たちの楽しみを奪うつもりもありませんので、そういった部分はうまく配慮しながらお話しできればと思っています。
採点は4.5(5.0満点)。最初に字幕版を観終えたあとの点数は3.7、3.8ぐらいで、吹替版を観て評価が上がりました。ただ、これは単純に「字幕版より吹替版のほうがいい!」という話ではなく、IMAX版と通常スクリーン版の違い、というのも大きく関わっています。
ご参考までに各スクリーンの座席の位置をお伝えしておくと、字幕版(IMAX)はスクリーン10のF列真ん中、吹替版はスクリーン4のE列真ん中になります(どちらもTOHOシネマ新宿)。
で、たまたまなんですが吹替版のほうが、ちょうど視界のなかにスクリーン全体が収まる感じになって、これによって画面全体の色彩設計がよく伝わってきて非常によかったんですね。
これに対してIMAXのほうは、おそらく視界に対してスクリーンが大きすぎて、受け取りきれなかった情報があったんではないかと思っています。「アンダー・ザ・シー」を含む序盤の海のシーンなどを中心に、色の鮮やかさに欠けた印象を終始受けました。
で、じゃあスクリーン的なものを別にして、字幕版・吹替版どっちがいいんだ? という話になりますと、「総合力では吹替版、でもハリー・ベイリーの歌声はぜひとも味わってほしい!」という感じで、いやどっちやねんという結論になってしまいます笑。
吹替版では、とにかくアリエル役の豊原江理佳さんの歌と演技が素晴らしいです。
これは後でも書くのですが、全体的に観て序盤がすこしビミョウなんです。そのビミョウさのなかに、アリエルの表情の起伏が乏しく感じられてしまう部分(あくまで個人の意見です。ご容赦ください)もあるのですが、豊原さんの演技がそれをうまく包み込んでいるんですね。
またセバスチャン役の木村昴さんの演技も絶妙(最近の作品ですと『ドラえもん』ジャイアン役、『呪術廻戦』東堂役など。テレビ東京系「おはスタ」や大河ドラマにも出演されています)。
字幕版のセバスチャンはとぼけたトーンがすこし希薄だったんですが(おもしろいことに後半からトーンがだんだんとコミカルなほうへと変わっていくんですよ)、吹替版は全編にわたってそのキャラクターの味が遺憾なく発揮され、その一方で、完全に前にでてしまったりすることのないよう、おそらく配慮もされている。
アリエルと二人の場面や、アリエル+フランダー+セバスチャンの3人(?)、またスカットルを加えた4人の場面でも、全体を見越しての緩急が非常に計算されている印象を受けました。で、これによって吹替版全体の完成度が高められている。
ただ。ただです。やっぱりハリー・ベイリーの歌唱力は凄まじいものがあります。
これは公開前に映画館で流れていた特報映像のものですが、これはまだまだ序の口。ある意味で映画の枠を飛び越えるほどの破壊力を宿した歌声は、ありがちな表現になりますが「圧巻」の一言に尽きます。
これはぜひとも体験してみてほしい。そう思います。
ですから、たぶん字幕版・吹替版、どちらのバージョンを観てもらってもいいと思うのですが、できればどっちも観てほしい笑。で、重要なのは、ぜひとも映画館で。上のティザーその他をノート型パソコンで観ていてもやっぱり思いましたが、映画館で味わうに相応しい作品なんじゃないかと思います。
●序盤はやっぱりビミョウ
ここまでかなり長くなってしまったので、全体を駆け足で。「アリエルがエリック王子を助けるまで」を序盤、「アリエルが地上に渡り魔女との約束のうちの2日目を終えるまで」を中盤、「3日からラストまで」を終盤としてお話しします。
序盤はやはりビミョウな印象が拭えません。特に字幕版のアリエルの演技は、先述の通り、どこか感情の起伏に乏しい感じを受けます。あと個人的に気になってしまったのは、ニシキゴイのような人魚たちの柄が目に入ってきてしまって、「お、おう……人魚………?」と思ってしまいました(付け加えると、海の生き物たちの造形や動きが、幻想的を通り越してリアルすぎてちょっと引いてしまう、という人もいるかもしれません)。あと、助けたエリック王子を岩場から見守るアリエル、正直ちょっと怖いです笑。
しかし、このビミョウな印象も中盤に入ると尻上がりによくなっています。その口火を切るのはエリック王子。これがまたいいんです。何がいいのかは、ぜひともご覧いただいて確かめてほしいと思います。また、おそらくは地上に出て、エリック王子などと並んで立つシーンが増えたことで、アリエルの「少女らしさ」が序盤に比べて増しており(=アニメーション作品のイメージに近くなっている)、それもプラス材料なのかなと感じました。
終盤。沢城みゆきさん(アースラが化けたヴァネッサの声を担当。最近の作品ですと『鬼滅の刃 遊郭編』堕姫役、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』鈴原サクラ役など)、出番は短いながらもヴァネッサの存在感に花を添えており、やっぱすんごいなと。
アースラとの対峙はやけにあっさりしている気もしましたが、まあそれもいいのかなと思いました。最後のシーンもとても感動できました(ただ違和感を感じた部分もありましたので、そちらは「番外コラム」にまとめています)。
アニメーションの「リトル・マーメイド」の上映時間は86分、本作は135分。単純計算では50分のプラスですが、中盤でなくなったシーンもあります。セバスチャンの厨房での戦闘シーンがまるまるなくなっており、当然ながらその場面での楽曲は使用されていません(なくても「そんな…!」と絶望される方もいないと思いますが笑)。
代わりに数曲とそれにまつわるシーンが追加されているのですが、この楽曲・シーンがどれもとてもいいんですね。「パート・オブ・ユア・ワールド」「アンダー・ザ・シー」など、すでにクラシックとすら言えるアニメーション版の代表曲たちに肩を並べる、と言うことはさすがにできませんが、どれもちゃんとした存在理由があり、実写版作品としての完成度を高めています。
総じて、全体として冗長な印象はなく、むしろあっという間に感じるぐらいです(最初2時間きっかりぐらいだろうと思っていたのですが、今回調べたら135分もあってちょっとびっくりしました)。
全登場人物魅力的で吹き替えについての「ハズレ」も感じませんでした。
個人的にはグリムズビー、女王(実写版オリジナルの追加キャストということでいいと思います)が好きです。特にグリムズビーの、なんといいますか、人としてのしたたかさと言うんでしょうか、アニメーション版にはない陰影のついたキャラクターは実にニクい。
アースラはほんとに「まんま」。最初マツコ・デラックスさんが中に入ってるんじゃないかと思いました(むしろ入っててほしかった。マツコさん、大好きです)。トリトン王、ニコラス・ケイジに似てるなーと思ったらツイッターでも同じように思った人が多いようで笑ってしまいました。大塚明夫さんは別格の安定さですね。
■まとめ
ちょっと長くなってしまいましたが、まとめです。個人的な採点としては4.5(5.0満点)。字幕版・吹替版、できればどちらも劇場で観てみてほしい作品です。
総合力で言うと吹替版のほうが上、しかし、アリエル役ハリー・ベイリーの歌唱力を体験しないのはあまりにも勿体ないと思います。スクリーンは大きさにこだわる必要は必ずしもないように思いますが、できればスクリーン全体が視界に入る位置を選ばれた方がいいように思います。
「もう一度劇場で観たいか?」という観点で選ぶと、たのさんが今年上半期観た作品(あとでリストへのリンクをつけますね)のなかでナンバーワンです。
ただし、アニメーション版に思い入れがある方にとっては、受け入れ難い感情があるのも最なお話で、その気持ちは痛いほどよくわかるつもりです。そちらについては下の「追記」に譲りますが、ただ、受け入れてくれなくてもいいので、別物としてでも構わないので観てみていただきたいな、というのが偽らざる気持ちです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
【番外コラム】賛否の背景にあるのは、おそらく人種問題ではない。
2019年7月、アリエル役にハリー・ベイリーがキャスティングされることが発表されると、その起用に否定的な声が沸き上がったと言います。
私も初めてそのニュースを聞いた時、正直「えええ…そこまでやる…?」と思ったものです。
しかし、その発表を観た黒人の女の子たちが「My Princess!」と声を上げ、涙を流している映像を観たとき、私は考え方を改めるべきだと思いました。この子達が、こんなにも「自分たちのお姫様」を待ち望んでいたなんて、と。
ただ一方で、「なぜアリエル役に黒人を?」という疑問の声が上がり続けた(または現在も上がり続けている)のも理解できるつもりです。しかしここで私が「理解」したいのは、この声の背景にあるのが「人種的な問題」では実はなく、私のようなマンガ好きがかつて何度も味わってきた「原作(この作品の場合はアンデルセンの童話よりはアニメ版ということになるでしょう)に忠実でない映画化に対する憤り」に対してであるということで、実際それが多くを占めているのではないだろうか、とも強く思うのです。
ディズニーによる「我々はただ、アリエルと言う役にふさわしい人物を探していただけ」という声明は、他ならぬハリー・ベイリーの歌声こそが証明し切ったと言っていいと思います。
ただ、それを踏まえてなお抱かざるを得ない疑問が2つあります。
ひとつは、すべての差別や偏見に抗う試みは、その目的・終着点を「融和(あるいは和解)」に据えたものでなければならないのではないか、ということです。
すこしややこしい言い回しかもしれませんが、(私などが口を挟む不見識その他諸々を承知の上で、)Black Lives Matterなども含めて、現在の様々な運動・行動の先には、「分断」しか存在しないような印象を受けてしまうのです。
本作について言うならば、実写版のプリンセスを私たちのものと呼べる子供たちが生まれた一方で、「自分たちのプリンセスを奪われた子供たち」が生まれてしまったのも、また事実のような気がしてなりません。
もうひとつは、上記のような懸念を抱けばこそ、やはりディズニーは、オリジナルの、そして新たな彼女たちのプリンセスを生み出すべきだったのではないかということ。
それは、ディズニーにしかできないこと、ディズニーだからこそ創りだすことのできる「魔法」なのではないでしょうか。
* * *
小ネタを2つ添えて終わります(だらだらすみません汗)。
「作品データ」でお伝えしたグーグルユーザーの評価が51%とほかに比べて低いのですが、記憶が確かならば、公開当初のYahoo映画の評価も「2.5」あたりの低いものだったと思います。(7/1現在の評価では3.4)
すくなくとも「Yahoo映画」においては、公開当初からの評価から数字が押し上げられているのではないかなーというのがひとつ(まあだとするとグーグルが低いままなのはなんでなんだ、ということにもなってしまうのですが)。
もうひとつは、アニメ版アリエルの声優を務めたジョディ・ベンソンがカメオ出演している、というもの。吹替版で声をあてているのはもちろんあの方です。
■映画『リトル・マーメイド』公式サイト
■映画『リトル・マーメイド』上映劇場リスト
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