「怪物だ──れだ」。映画『怪物』評

「怪物だ──れだ」 映画『怪物』評

 2023年6月7日(水)、TOHOシネマ新宿で映画『怪物』を観てきました。今年10本目かな(ちなみにたのさんは火・水をお仕事の定休日にしています)。

2023年1月5日公開の第1弾 ポスタービジュアル(©︎2023「怪物」製作委員会)

■作品データ

・タイトル:「怪物」
・監督:是枝裕和
・脚本:坂元裕二
・出演者:安藤サクラ、永山瑛太、黒川想矢、柊木陽太、高畑充希、角田晃広(東京03)、中村獅童、田中裕子
・音楽:坂本龍一
・上映時間:126分
・公開日:2023年6月2日
・映画.com:4.1/5.0(2023/06/10現在・346件)
・Filmarks:4.2/5.0(2023/06/10現在・ ‎7,202件)
・Yahoo映画:3.7/5.0(2023/06/10現在・985票)
・Movie Walker:4.3/5.0(2023/06/10現在・51件)
・Google:84% のユーザーがこの映画を高く評価(2023/06/10現在)

■概要

「監督 是枝裕和・脚本 坂元裕二・音楽 坂本龍一」というビッグネーム揃いで封切り前から話題となっていた1本。封切り直前に開催された世界で最も有名な国際映画祭の一つ、第76回 カンヌ映画祭(2023年5月16日-5月27日)で脚本賞を受賞したことも追い風に。なおカンヌでは脚本賞のほか、LGBTやクィアを扱った映画に与えられる「クィア・パルム賞」も受賞しています(2010年に創設・日本映画としては初の受賞)。

©︎2023「怪物」製作委員会

■ストーリー

大きな湖のある郊外の町。

息子を愛するシングルマザー(麦野早織/安藤サクラ)、生徒思いの学校教師(保利道敏/永山瑛太)、そして無邪気な子供たち(麦野湊/黒川想矢・早織の息子/星川依里/柊木陽太)。

それは、よくある子供同士のケンカに見えた。
しかし、彼らの食い違う主張は次第に社会やメディアを巻き込み、大事になっていく。

そしてある嵐の朝、子供たちは忽然と姿を消した──。

(公式サイトより)

■たのさんの個人的評価

※映画の内容について、開示されているアウトラインに沿う形で触れます。

 採点は3.8(5.0満点)。映画を評価し点数化することにまだまだ慣れていないので、今後この点数は変わるかもしれません。なお今後さまざまな作品を観て点数をつけてゆくにあたり、2.5点以下の作品はブログに書きません(他の媒体で書くこともありません)。

 3.8点という点数は、現時点で「気になっている人は劇場で観てもいいんじゃないかなー」といった印象になります(ただこの感触も今後変わり得ることをご了承ください)。

 個人的に、脚本家の坂元裕二さんはいくつものドラマ(「カルテット」「それでも、生きてゆく」など)を拝見してきて、たぶん一番好きな脚本家さん、そして音楽を担当され、今年3月に逝去された坂本龍一さんは、「敬愛する」という表現を用いてもいいぐらいの、長年にわたる私にとってヒーローともいうべき方です。ただし、「3.8」という数字にそうした個人的なリスペクトの要素は含まれていません。

 この映画は大きく3つのパートで構成されています。最初のパートは、夫に先立たれ、小学生の息子・湊を一人で育てる麦野早織(安藤サクラ)を軸に物語が進みます。

 坂元脚本の真骨頂ともいうべき(だと私は思っているのですが)息子との会話劇によって何の変哲もない「日常」が進むなかで、しかしそれは、湊に起こる数々の「異変」に早織が気づいてゆくことで一変し、次第に重苦しい雰囲気を纏っていきます。

©︎2023「怪物」製作委員会

 126分という時間のなかをわかりやすく噛み砕きながら、それでいて物語のベースとなる不穏な雰囲気を、緊張感を途切らせず最後まで描ききった是枝監督の手腕はやはりさすがというべきものがあります。

 で、子役の二人の演技があまりに良いためその影に隠れてしまいあまり触れられてないように思うのですが、息子役・湊の担任役を演じる永山瑛太さんの演技が素晴らしい。

 ほんとに微妙な匙加減で過剰になったり嘘臭くなってしまう役を、見事に演じきっているではないでしょうか(もちろん二人の演技も素晴らしいですよ!黒川くんは2009年12月生まれ、柊木くんに至ってはなんと2011年9月生まれ(!!!)です!(´ω`)イヤハヤ)。

©︎2023「怪物」製作委員会

 坂本龍一さんの音楽も、実に(音楽でありながら)静かに、そして丁寧に物語に寄り添います。ごくごく個人的には、「ああ、これが本当に教授の映画音楽としての最後になるのかなと思ってしまって、それだけで(かなり序盤で)涙腺が決壊してしまわずにはいられませんでした。年をとるといかんのう((´ω`))プルプル.

 残る2つのパートについてや、湊に起こる異変については、とりあえずここでは触れずにおきますね。

■「怪物だ───れだ」

※【ご注意】こちらでは映画の内容・核心について詳細に触れます。映画をご覧になってから読まれることをお勧めします。また筆者の考察が多分に含まれるものであることを、予めご了承ください。

「怪物だ───れだ」。

 これは映画のキービジュアルにも掲げられた、おそらくは是枝監督・坂元裕二氏お2人によって投げかけられた、今作のテーマなんだと思います。

2023年3月31日公開のとなった本ポスタービジュアル(©︎2023「怪物」製作委員会)

 しかし「作品データ」中で挙げた各評価サイトのさまざまなレビューを見ていると、「怪物なんていなかった」という見方が大勢を占めているようです。

 たのさんとしてはそこについてはちょっと意見が違くて、それは、お2人がこの作品で投げかけたかった(たぶん裏テーマ的な)答えは、「ほんとうの「怪物」は、常に怪物探しをして(しまって)いた、観客自身なのではないか」というものです。

 この作品はつまり、お2人の現在の日本への批評といった側面を多分に含んでおり、そして多分、そこを見抜いたからこそ、カンヌはこの作品に脚本賞を与えたのではないのかな、と思うのです。

(そして恐らく坂本教授も、お2人のそうした思惑に与していて──というのは、さすがに憶測が過ぎますかね)

 これが正解だったとしても、本人たちはそれを公の場で明らかにすることはないでしょうけどね。

 ただ仮に、本当にそれが答えだったとしても、そこにも疑問符がつく、と言わざるを得ません。

 私がこの作品の怪物は誰だと聞かれたら、「まず間違いないのが湊の同級生・星川依里の父である星川清高(中村獅童)だろう」と答えると思いますし、校長(田中裕子)がスーパーのシーンで見せた悪意についても説明がなされません。細かいところで言うと依里の暗号もよくわからんし、先生も行動がいろいろと短絡すぎやしませんか。

 エンディングに文句があるわけでは決してない(いやあるのかな)のですが、一見救いと希望に満ちた終わりのように見えて、むしろ彼らの戦いはここからこそが過酷で辛いものにならざるを得ないことを、私たちは知っているはずです。

 早織が2人の敵となる未来すら、残念ながらありうるはずです。「夫(父親)がいないから、湊はそうな(ってしま)ったのか」とちょっとでも考えない母親はいないのではないでしょうか。

 個人的に望むのは、続編を作ってほしいな、と思います。2人が歩む未来を、そして願わくば、保利先生・伏見校長の再生の物語を紡いでほしい。

 そこまで至って、やっとこの作品も完成する。そんな気がするのです。

©︎2023「怪物」製作委員会

映画『怪物』公式サイト・上映劇場リスト

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